●長谷部 光泰(基礎生物学研究所)
「陸上植物の発生進化研究の推進」

 

長谷部光泰氏は、陸上植物を中心とした系統学や進化発生学において、独創的な研究を展開し、全ゲノム解読を始めとして、分類学、遺伝学、生理学など、多様な生物学分野に大きなインパクトを与えた業績をあげた。 長谷部氏は、植物の分子系統学的研究を先導し、陸上植物の5単系統群のうち、3群の系統推定を世界に先駆けて行い、現生裸子植物の単系統性(Hasebe et al. 1992. Bot. Mag. Tokyo. 105:673-679)、シダ類のほぼ全科の系統関係 (Hasebe et al. 1995. PNAS 85:134-181)、コケ植物の単系統性 (Nishiyama et al. 2004. Mol. Biol. Evol. 21:1813-1819)を示した。これらの成果の多くは最新のゲノムレベルの系統推定によっても支持されている。 陸上植物には多様な形態を持った植物群があるが、従来は被子植物以外には遺伝子工学技術が利用できるモデル植物がなかった。そこで、コケ植物のヒメツリガネゴケを用い、形質転換系の開発およびモデル植物化に取り組むと共に発生進化研究を強力に推進し、陸上植物の生殖器官(Hasebe et al. 1998. PNAS 95:6222-6227, Tanabe et al. 2005. PNAS 102:2436-2441, Maizel et al. 2005. Science 308:260-263他)、栄養器官(Fujita et al. 2008. Evol. Dev. 10:176-186, Aya et al. 2011. Nat. Commun. 2:544, Xu et al. 2014. Science 343:1505-1508他)、生活史(Okano et al. 2009. PNAS 106:16321-16326, Sakakibara et al. 2013. Science 339:1067-1070)の進化的基盤を分子レベルで解明した。また従来、陸上植物の中では被子植物のみで全ゲノム解読が行われていた。そこで、長谷部氏は、シダ植物(小葉類)のイヌカタヒバおよびコケ植物のヒメツリガネゴケについて、国際ゲノム解読コンソーシアムを結成して全ゲノム解読に成功し、発生遺伝子が陸上植物の系統により大きく異なることを明らかにした(Rensing et al. 2008. Science 319:64-69, Banks et al. 2012. Science 332:960-963)。さらに、これらの研究成果を基盤として、多細胞体制の源泉である幹細胞の進化を明らかにすることを目標にしてERATO分化全能性進化プロジェクトを立ち上げ、植物幹細胞形成に関わる新規分子機構を次々に解明した(Ishikawa et al. 2011. Plant Cell 23:2924-2938, Sakakibara et al. 2014. Development 141:1660-1670, Kofuji and Hasebe. 2014. Curr Opin Plant Biol 17: 13-21, Palvaskin et al. Dev. Cell. in press他)。 以上のように長谷部氏は、進化学分野における顕著な業績から、日本進化学会賞授賞に十分値すると判断した。