●西田睦博士(東京大学大気海洋研究所 海洋生命システム研究系 教授)
「魚類の進化に関する分子系統学的研究

 

生物の系統関係は進化の理解はもとより、あらゆる生物研究において必要不可欠な礎をなすもので、それはダーウィンの「種の起原」に掲載された唯一の図が系統樹の概念図であったことや、「どんな生物現象も、進化を考えに入れない限り理解することはでき意味を持たない」というドブジャンスキーの言葉を敷衍した「どんな進化現象も、系統を考えに入れない限り理解することはできない」というエイビスの言葉に如実に表れている。


西田睦博士は、脊椎動物の根幹をなす魚類を中心とした水圏生物を対象にして、30年にわたって一貫して系統学的研究を行ってきた。系統関係とは遺伝子・ゲノムの伝達経路であるという考えに基づき、早くから分子レベルでの研究に取り組み、その結果、アユ、コイ、フナ、タウナギなど、日本を含む東アジアの多くの魚類の遺伝的集団構造、系統地理学的構造を解明してきた。西田睦博士は、これらの魚類の進化史に光を当てたことにより、日本の魚類系統地理学研究の現在の活況を導くために大きく貢献した。しかし、西田睦博士の魚類進化への興味は日本の魚類だけにはとどまらなかった。現在、進化研究の材料として脚光を浴びている東アフリカのシクリッドにもいち早く注目し、1991年には、タンガニカ湖に生息する12族全てを含む20種の間の遺伝的分化について、アロザイムを用いて解析し、その後の研究展開の基礎となった論文を公表した。

 

近年は、ミトコンドリア全ゲノムデータを用い、魚類全体をカバーする包括的分子系統解析を行った。このような大分類群の包括的分子系統解析は被子植物と並び、世界に先駆けるものである。さらに得られた系統関係を基にして、魚類に特異的なゲノム重複を含む遺伝子進化・ゲノム進化の研究においても優れた成果を挙げている。